社交(社会)不安障害 最近の治療の研究
社交不安障害とは、人から注目されるのがとにかく怖いという病気です。
例えば、人前で発表する、大勢の前で発言する、などといった場面で、恐怖感、緊張感、不安感が強くなり、心臓がドキドキしたり、冷や汗をかいたりしてしまいます。
このため、人から注目される場面を避けるようになり、職場などで困るのです。
重度のあがり症という言い方もできるかもしれません。
パニック障害、PTSDや統合失調症などといった病気でも似た症状が出る場合がありますので、鑑別する必要があります。
治療としては、心理療法(精神療法、心理カウンセリング)や、SSRIという抗うつ薬による治療などがあります。
この社交不安障害に関して、最近の研究をまとめてみました。最近は、薬物療法よりも、心理療法の研究が多いみたいですね。
注意バイアス修正法という治療法についての研究です。
バイアスとは偏りのことです。
不安が強い人は、ネガティブなものに注意が向いてしまう傾向があります。つまり、注意がネガティブなものに偏るわけです。
この注意の偏りを修正するのが、注意バイアス修正法です。
これはパソコンを使うのですが、パソコンの画面に、ネガティブな言葉と、普通の言葉を同時に見せると、不安が強い人は、ついついネガティブな言葉を見てしまいます。
例えば、
バカ コップ
と並べて表示させると、「バカ」というネガティブな言葉を見てしまうわけです。
しかも、ずっとネガティブな単語を見続けてしまったりします。ほとんど無意識の現象ですね。
それで、「バカ」から注意をそらすために、「コップ」のあたりにポインターを表示させて、「バカ」の方を見ずにこっちを見てくださいとやるわけです。
こうして、ネガテイブな単語から注意をそらせるというトレーニングを続けると、ネガティブなものに注意が向く傾向が改善されます。すると、気持ちも穏やかになるという理屈です。
こちらの研究は、そのテクニカルな方法論を研究したもので、パソコンにポインターを出すタイミングを変えると効果は変わるかといったことを調べたようですが、明らかな違いはなかったとのこと。
まあ、その結果はさておき、社会不安障害にこういった治療法があることは知っておいても良いと思います。ちなみに、他の不安障害に対しても有効な治療のようです。
マインドフルネスとは瞑想や深呼吸などによって心を落ち着かせる方法です。元々は仏教から来ています。最近、アメリカを中心に流行ってますね。
今、様々な精神疾患でマインドフルネスが有効ではないかと言われていますが、こちらの研究では、12週間のマインドフルネスの治療が社交不安障害にも有効だったという結果を出しています。
マインドフルネスは、自宅でもできる手軽さが良いですね。
こちらは認知行動療法という心理療法についてです。
認知行動療法とは、悪い方向に考えすぎてしまう、ネガティブ思考などといった考え方の偏りを修正していき、気持ちを穏やかにするという手法で、うつ病の治療として有名ですが、他の精神疾患にも有効です。
この研究では社交不安障害とパニック障害への有効性を調べています。
この認知行動療法ですが、元々は患者さんが、精神科医や心理カウンセラーと対面で行うものでした。
ただ、最近は、インターネット上で行うものが出たりと、進化してきています。
こちらでは、心理教育(メンタルの病気やストレスについての説明)、インターネットのガイド、対面の認知行動療法と段階的に色々な方法を組み合わせたものの有効性が検証されています。
結果として、従来通りの対面の認知行動療法と効果の差はなかったとのことです。
このように、今後は、インターネットを使った認知行動療法が増えていきそうです。その方が、コストは抑えられますよね。
不安障害の人は、扁桃体という脳の中の小さな領域が活動しすぎています。社交不安障害も不安障害の一種ですから、同じことが言えます。
この研究では、認知行動療法という心理療法が脳の扁桃体に及ぼす影響を調べています。
社交不安障害の人に認知行動療法を行うと不安症状が改善するのですが、その治療の前後でMRIという機械を使って脳の体積を調べると、扁桃体が少しだけ小さくなっていたとのこと。
扁桃体の異常な活動性が抑えられた結果なのかもしれません。
このように、心理療法とは脳に物理的に影響を及ぼすという研究結果が最近はどんどん報告されてきていますね。
社交不安障害の治療には、SSRIという脳内のセロトニンを増やす抗うつ薬を使います。
抗うつ薬はうつ病の薬ですが、不安症状にも有効なんですね。
こちらは、エスシタロプラムというSSRIを社交不安障害の人に使ったところ、症状が良くなったという報告です。
この結果では、20mgは明らかに有効でしたが、10mgはあまり有効ではなかったとのことでした。
医師と患者の関係が大事だという話は、うつ病ガイドライン徹底解説9でも説明しましたが、別にうつ病だけでなく、全ての精神疾患の治療で大事です。
この研究では、パニック障害と社交不安障害の人の、医師・患者の関係性を調べたところ、関係性の良い方が治療成績が良かったという結果が出ました。
このように、医師・患者の関係性は、病気が治るか否かにも関わってくる大事な要素なのです。
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