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PTSDのバイオマーカーは音と脳波?



PTSDのバイオマーカーは音と脳波

精神疾患は症状だけで診断を下すのですが、この診断の精度がよく問題になります。例えば、内科でなんの検査もせずに発熱とか咳とか症状を聞いただけで診断するってあまり無いですよね。まあ、風邪くらいならあるかもしれませんけど、ある程度の重い病気になれば、必ず採血したり、レントゲンを撮ったりします。でも、精神科では検査がほとんどありません。これではちゃんと診断できているのか客観的に証明することができないので、精神科の診断はいい加減だと思われてしまうこともあります。これをなんとかするには精神疾患でも検査が必要だと考えられ、世界中で研究されています。この検査のことを生物学的指標(バイオ・マーカー)と言います。さまざまなバイオマーカーがありますが、古くから研究されているバイオマーカーに脳波検査というものがあります。脳波とは脳が出す微弱な電気のことで、一定の周波数があるので脳波と呼ばれます。原理的には、心電図の検査に近いですね。 今回はPTSD(外傷性ストレス障害)という病気の脳波検査について調べた研究を紹介します。

引用文献:Bangel KA, et al. Aberrant brain response after auditory deviance in PTSD compared to trauma controls: An EEG study. Sci Rep. 2017. doi: 10.1038/s41598-017-16669-8

PTSDという病気は例えば暴行にあうなど、死ぬほど怖い体験をした後に出る病気です。ただ、怖い目にあうと誰でもPTSDになるわけではなく、ならない人の方が多かったりします。PTSDの症状は、過去の怖かったことを急に思い出すフラッシュバックが有名ですが、他にも常に落ち着かなくなったり、小さな物音がやたらとら気になったりする症状などもあります。

今回ご紹介する研究では、PTSDの症状の中で、音の過敏さに注目したようです。ここでは、PTSDの患者さんである13人の男性が参加しました。研究には比較する対照が必要ですが、対照は一般の健常者が選ばれることが多いです。しかし、この研究では少し工夫していて、PTSDの人たちと同じくらい怖い体験をしているけどPTSDにはならなかった人たちが対照になっています。この人たちを比べれば、怖い目にあってもPTSDになる人とならない人の脳にどのような違いがあるのか分かります。 さて、脳波計を使ってこの方々の脳波を調べるのですが、その際に一定の間隔で1000ヘルツの音を聞いてもらいます。そして、時々1200ヘルツの音を混ぜます。急に音が変わった時の脳波の変化を調べるわけです。やはり、神経過敏になっている人はちょっとした変化にもドキドキしてしまうことが多いので、PTSDの人たちの方が反応が強そうですよね。結果はやはりその通りで、PTSDの方がシータ波が増えたりアルファ波が減るなどの反応が出たそうです。

こうした検査結果の違いは診断にも役立てられると思いますが、もしかすると今後の予測で使うこともできるかもしれません。例えば大きな災害にあった方で、今後、PTSDの症状が出るか出ないかを予測することは現時点では無理ですが、脳波の反応を見て、この人は音に対する過敏さが強いのでPTSDになるかもしれないと予測を立てることができるかもしれません。予測が立てられると、PTSDになる可能性が高い人は早めに心理的なケアを受けるよう工夫するなど、事前に対策を立てることができます。もちろん、今回の研究ではそこまで調べていないので分かりませんが、さらに研究する余地のある分野だと思います。

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