PTSDとアセチルシステイン
(こちらは昨年noteに公開した記事を修正したものです)
いきなりですが、依存症って、皆さんはどんなものを知っているでしょうか?
覚せい剤依存症やアルコール依存症、最近だとギャンブル依存症などもメディアで取り上げられるようになっています。
この依存症ですが、実は他の精神疾患と組み合わさることが多い病気です。
つまり、依存症だけを持っているのではなく、例えば、うつ病と依存症の二つを同時に持つ
ということです。
流れとしては、もちろん色々な人がいますが、例えば、うつ病になり、とにかく辛くて、その辛さを紛らわせるために、薬物に手を出して薬物依存症になってしまうというのが一つのよくある形です。
その他では、PTSDと依存症という組み合わせもよくあります。
PTSDとは、(心的)外傷後ストレス障害の略語で、英語で書くとPost Traumatic Stress Disorderとなり、その頭文字を取った言葉です。
死ぬほど辛く恐ろしい体験をした後に、夜にその時の夢を見たり、日中でも急にその当時の光景を思い出したりして恐怖を覚えるという精神疾患です。
PTSDは、例えば、虐待やレイプの被害者などに見られます。
そして、アメリカなど戦争をしている国では、戦地から帰ってきた兵士がPTSDで苦しむこと
が社会問題になっています。
平和な日本では分からない話ですね。
PTSDによる恐怖感、苦しみを紛らわせるため、アルコール依存症や薬物依存症になる人が多いんですが、実は、脳科学的に考えても、PTSDと依存症は共通点があるそうです。
どちらも、脳の側坐核という場所にある、グルタミン酸神経系(グルタミン酸という物質に関わる神経系統のこと)の障害があるということです。
今回は、そんな関わりの深い、PTSDと依存症の両方に関係する論文を紹介します。
さて、話は変わりますが、アセチルシステインって聞いたことがあるでしょうか?
過量内服された人の解毒に使ったりする薬なんですが、これが依存症の治療にも使えるという報告が最近は増えてきているのだそうです。
この研究では、PTSDと依存症をもつ退役軍人35人が参加されました。
先ほども言ったように、戦地から帰ってきた軍人さんがPTSDと依存症の両方で苦しんでいるケースは多いのです。
この35人の人々を、認知行動療法という精神療法を行いながらN-アセチルシステイン(2400mg/日)を8週間投与するという治療を行うグループと、認知行動療法を行いつつ、プラセボというダミーの内服薬を投与するグループにランダムに分けました。
そして、二つのグループで、PTSDの症状や、薬物を渇望するといった依存症の症状がどうなったのかを統計学的に検証しています。
このように、治療法の違う二つのグループにランダムに分けて結果を比べるという手法は、医学研究ではよく取られます。
この研究のように、片方は薬を投与され、もう片方はダミーを投与されます。
実は、医者と患者の両方とも、ダミーなのかどうかは教えてもらえません。
つまり、医者は自分の処方がダミーなのか本物の薬なのか分かりませんし、患者さんも出された薬が本物かダミーか分からないんです。
なんでそんなことをするの?と思う方もいるかもしれません。
いくつか理由がありますけど、その一つは心理的なものです。
例えば、人間、本物の薬だと思って薬を飲むのと、偽物だと思って薬を飲むのとでは、効果が違ってくるものです。
偽物でも本物だと思い込むと本物のような効果を感じたりします。
ようは先入観の影響って結構大きいということですね。
それは、医者の方も同じで、例えば本物の薬だと思うと、全然効果が無くても、患者さんが良くなったと思い込み、結果に良くなったと書いてしまうことがあります。
こうした先入観や思い込みによって結果が左右されことを防ぐために、医者にも患者にも、本物か偽物か教えず、内緒にしておくわけです。
さて、話は戻りまして、結果発表です。
研究の結果、認知行動療法を行いつつN-アセチルシステインで治療された人々は、認知行動療法とダミーのプラセボ薬を投与されていた人々と比べ、PTSD症状や薬物を渇望する症状が改善していたとのことです。
この論文では、PTSDと依存症を併せ持つ患者には、N-アセチルシステインと精神療法を組み合わせた治療が効果的な可能性があると結論づけています。
二つの病気、両方とも改善するアセチルシステインのポテンシャルは大きいですね。
PTSDの治療は、現在は、抗うつ薬(うつ病の薬)が中心となります。
これが、将来的に変わってくるかもしれません。
解毒薬とか、痰を取る薬として使われているアセチルシステインですが、今後はPTSDや依存症の治療として、精神科でも使われるようになるかもしれませんね。
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