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多発性硬化症とうつ症状と脳の炎症



多発性硬化症が脳の炎症を起こし、うつ症状、不安症状を起こす

ばい菌が体の中に入ると炎症が起きて、感染した部分が腫れたり、熱を持ったりします。人間が持つ免疫による反応です。こうした炎症は色々なケースで起きます。特に細菌やウイルスに感染しなくても、自分自身で自分の体の中に炎症を起こしてしまう病気もあり、自己免疫疾患などと呼ばれます。例えば、関節リウマチでは関節に炎症が起きますが、自己免疫疾患の中には脳や神経に炎症が出る病気もあります。

このように、様々な炎症があるのですが、脳の炎症、神経の炎症が精神疾患に関わるという仮説があります。特に、気持ちが落ち込んだり、体が疲れたり、だるくなったりという症状と関わると言われています。これらは、うつ病の症状です。つまり、脳に炎症が起きて、うつ病と同じ症状が出るということです。

この、うつ病の神経炎症仮説は世界中で研究が進んでいます。今回は、多発性硬化症という脳や脊髄の神経に炎症が起きる病気とうつ病の関係を調べた研究論文を紹介します。

多発性硬化症は神経、つまりニューロンの軸索というひょろりと伸びた部分に炎症が起きる病気です。感染のせいではなくて、自分で炎症を引き起こしてしまう病気です。このため、体の一部が痺れたり、動きにくくなったり、目が見えにくくなったりと様々な症状が出ます。また、一度良くなっても、また再発する病気です。

多発性硬化症の人はうつ病になりやすく、それはなぜなのかずっと議論になってました。もちろんどんな病気であれ精神的なストレスは多くなるので、そのせいだという考え方もあります。しかし、脳の炎症がうつ病を引き起こしている可能性もあるのです。

この研究には405人の多発性硬化症の患者さんたちが参加しました。多発性硬化症が良くなったり悪くなったりを繰り返している方々です。うつ病の症状と不安症状のアンケートが行われ、それと頭のMRIや脳脊髄液の検査データとの関連性が調べられています。

脳や脊髄に炎症が起きると、脳脊髄液の中のサイトカインという炎症に関わる物質が増えます。そのサイトカインの中で、TNF-αとインターロイキン1β(IL-1β)というサイトカインがうつ症状に、インターロイキン2(IL-2)というサイトカインが不安症状に関連していました。また、MRIの所見はあまり関係がなかったようで、精神症状については脳脊髄液の結果の方が関係が深いようです。本来、MRIは多発性硬化症の一番の検査なのですが、うつ症状などの精神症状を考える分にはMRIは不十分ということです。さらに、多発性硬化症で不安症状が高まる人は、再発の兆候の可能性も考えられるとのこと。つまり、情緒不安定になってきたら脳に炎症が起きているサインだという可能性があるというのです。

一般的に、精神的に不安定の人を見るとストレスがたまっているのかなと思う人が多いと思いますが、今回の研究結果のように、脳の病気などで精神症状が出る場合もあるのです。今後は、うつ病の症状がひどい場合なんかは脳の状態を調べる時代になるかもしれません。しかし、日本では脳脊髄液を検査できるところはとても少ないですし、検査できたとしてもサイトカインは測定しにくいと思います。高度な医療を行うためには、医療に必要な体制を整備することが必要ですね。

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