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リチウム(炭酸リチウム)による双極性障害の治療



リチウム

今回はリチウム(炭酸リチウム)という薬を紹介していきます。リチウムは1949年に双極性障害の躁病に有効と報告され、以来、双極性障害ではよく使われる薬になっています。双極性障害のうつ病にも躁病にも効果はありますが、どちらかというと即効性の無い薬で、非定型抗精神病薬の方が効果がすぐに出ます。このため、早く良くしたい場合には、非定型抗精神病薬の方が好まれます。

しかし、リチウムが本当に力を発揮するのは、病気の予防です。双極性障害は一度良くなり精神的に落ち着いても、しばらくすると再発してしまい、再びうつ病や躁病の症状が出てきてしまいます。このため、良くなった後は再発予防の治療が必要になります。これを維持療法と言いますが、リチウムはこの維持療法の効果、つまり再発予防効果がしっかりしているのです。

また、最近ですと、双極性障害だけでなく、通常のうつ病についても再発予防効果があるかもしれないという研究報告が出ています。こちらは、以前にここのブログでも紹介しました(「うつ病の再発をリチウムで防ぐ」の記事はこちら)。さらに、リチウムは水道水にも少しだけ含まれていたりするのですが、この水道水を飲むだけで自殺する人の割合が減るというデータもあり、ほんの少し摂取するだけでも、気持ちを安定させる効果があると考えられてきています。また、最近ではリチウムには神経保護作用、ようは脳の神経細胞を守る効果もあると言われていて、リチウムが含まれた水道水を飲んでいると認知症になりにくくなるという報告も出てきています。このように、リチウムを少しだけでも体内に取り込むと、色々な精神疾患、脳の病気を予防できるのではないかと言われ、期待が集まってます。

このように良いところばかりを伝えると万能薬みたいですが、残念なことに、世の中に万能薬なんてありません。必ず副作用のリスクも出てきます。リチウムによくある副作用は、手指が震える、尿が増えるなどですが、もっと強い副作用もあります。甲状腺ホルモンを低下させることもありますので、もともと甲状腺ホルモンが低い人は使いにくい薬です。また、てんかんという病気の人が飲むと、病気が悪化するため使うことは禁止されています。心臓に悪影響を与えたり、腎臓を悪くしたりすることもあるため、心臓が悪い人や腎臓が悪い人にも使えません。あとは、妊婦さんにも使えません。これは、Ebstein奇形といって、赤ちゃんの心臓に奇形を発生させる可能性があるためです。このように、状態、持病などによっては使えない薬になります。

また、体内にリチウムを取り込みすぎると、リチウム中毒という危険な状態になります。脱水などで血液が濃くなってもリチウム中毒になることがあります。このリチウム中毒とは、初期症状として吐き気や下痢、眠気、錯乱、発熱などが出てきて、さらに進行すると腎不全になったり、全身けいれんが出てきたりして生命の危険も出てきます。リチウム中毒になった場合は、点滴や透析などの処置が必要になるため入院が必要です。このような事態を防ぐために、リチウムを内服している人は時々血液検査を行い、血中のリチウムの濃度や腎機能などを測定しなければいけません。特に薬を増やしたばかりの頃は、こまめに採血が必要になります。逆に、しっかりと採血してリチウムの濃度や副作用を見ておけば、安全に使うことができます。採血と聞くと嫌だなと思う方もいると思うかもしれませんが、リチウムは先ほども言ったように効果がしっかりしているので、病状の安定のためには時々血液検査をしながらでも使っていく方が良いことが多いです。

まあ、色々と怖い副作用の話もしましたが、脳や内臓の病気が無い人ならそんなに心配しなくて大丈夫ですし、少なめに使う分にも安全性は高いと思います。何より血中濃度を測定できるので、しっかりと採血さえしておけば、数値を見ながら有効性や安全性を確認しながら使えるという便利さもあります。抗うつ薬なんかは、血中濃度を測定したりしませんしね。そう考えると、決して使いにくい薬ではないと思います。

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