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前頭側頭型認知症は精神疾患と区別がつきにくい



前頭側頭型認知症の鑑別診断

今回は認知症と精神疾患の見分け方について話します。「認知症と精神疾患なんて全然違うものじゃないか」と思われる人も多いかもしれません。確かに、物忘れが増えたり、記憶力が落ちたりする認知症という病気と、気持ちが落ち込んだり、不安になったりするような精神疾患では、どこが同じなんだと疑問に思うのも無理はないでしょう。ただ、それはあくまでちまたにあふれるイメージです。実際は、認知症ではさまざまな精神症状が出ますし、精神疾患でも記憶力が落ちるなど認知症に近い症状も出ます。両者の症状は時にとても近くなるのです。

そこで、今回はこの見分け方についての研究を紹介します。認知症の中でも前頭側頭型認知症というタイプは、精神科的な問題が多いことで有名です。性格が変わって横暴、暴力的になったり、周囲に対して無関心になり、人目を気にせず変な行動をとったりしてしまいます。変な行動、異常行動という症状が強いので、精神的におかしくなったのではないかと思われ精神科に受診するケースは珍しくありません。この前頭側頭型認知症は、名前の通り認知症の一種なのですが、お年寄り、老年期で発症するというより、50代くらいの中高年で発症することが多く、また初期には物忘れ、記憶力の低下が目立たないということもあり、認知症と思われにくいという特徴もあります。今回は、この前頭側頭型認知症と通常の精神疾患との見分け方についてのオランダの研究をご紹介します。

このオランダの研究に参加した方は、うつ病、双極性障害、統合失調症という精神疾患の人たちと、前頭側頭型認知症の方、そして比較する対照の健康な人たちです。だいたい60歳から70歳くらいの高めの年齢層の方が参加しています。この人たちの認知機能すなわち脳の機能をテストします。特に注意機能、遂行機能(しっかりと計画して実行するスキル)といった仕事などのスキルに関わる能力や、言葉の流暢性、つまりスラスラと書いたり話したりできるかどうかなどが調べられました。こうした機能は脳の前頭葉が強く関わっています。前頭側頭型認知症は前頭葉と側頭葉が障害される病気なので、注意機能、遂行機能、言語の流暢性などの認知機能が障害されるのです。

しかし、この研究結果では、精神疾患でも前頭側頭型認知症でも認知機能、脳のスキルが低下していました。しかも、遂行機能については前頭側頭型認知症の方よりも精神疾患の人たちの方が悪かったとのことです。注意機能についても、うつ病や双極性障害の人の方が前頭側頭型認知症よりも悪い結果でした。言葉の流暢性についても大きな差はなかったようです。

まとめると、認知機能の検査は、むしろ精神疾患の方が前頭側頭型認知症よりも悪い結果だったんです。精神疾患で脳の機能が低下することを知らないと、この結果は意外に思うかもしれません。しかし、ある程度精神状態が不安定になると考えたり覚えたりするどころではありません。精神状態が悪化すると脳の機能も乱れてしまい、ミスが増えたり、上手く話せなくなったりしてしまうのです。また、逆に脳の機能が低下し、その結果、精神状態が悪くなることもあります。つまり、認知機能と精神疾患の関係は深いんです。

しかし、認知症の一種である前頭側頭型認知症と同じくらい精神疾患の認知機能が低下するというのは少し意外な結果です。この結果から言えるのは、認知機能つまり脳の機能、スキルの検査をして悪い結果が出たとしても、認知症のためなのか、精神疾患のためなのか、よく分からないということです。

しかし、ではどうすれば良いのでしょう?

前頭側頭型認知症と精神疾患をしっかりと区別するには、おそらく画像検査になるでしょう。前頭側頭型認知症は脳の前頭葉、側頭葉が萎縮、つまり縮みます。また、前頭葉、側頭葉の血流や代謝が悪くなり、これを画像検査で見つけることもできます。

このように、症状だけで判断はできないので、脳をしっかりと見てから区別するのが大事になります。今後は精神科でも脳の検査が増えてくるかもしれません。

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