うつ病ガイドライン徹底解説1 体の病気
ここでは日本うつ病学会が公開するうつ病のガイドラインの2016年版を解説したいと思います。
今日、うつ病は日常的な用語となりましたので、知っている人も多いと思いますが、その診療ガイドラインまで知っている人は少ないと思います。
うつ病ガイドラインの正式名称は、「日本うつ病学会治療ガイドライン II.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016 」となりますが、長いので、うつ病ガイドラインとだけ書くことにします。
ガイドラインとは、目安となる基準のことです。
医療でいうところのガイドラインは、「現代の普通の治療はこうだ」ということが書かれたマニュアルみたいなものになります。
医療関係ではガイドラインは山のようにありまして、診察、治療する上でのお手本になります。学会が出しているガイドラインは、しっかりと医学的な研究結果、データを元に、専門家が話し合って作っていますので、かなり信頼できるものになります。
こうした診療のガイドラインを一般の人も知っておくと、自分が病院に行くときに参考になります。
お医者さんがどんな治療をするのか、あらかじめ分かるわけです。
また、世の中には色々なお医者さんがいまして、時々、かなり独創性の高い治療を行う人もいます。こんな時にガイドラインを知っていると、「普通の治療と違うな」と感じることもできます。
ガイドラインを知っていると、知人や家族が病院に行く時にアドバイスをすることもできるかもしれません。
ということで、ガイドラインを知る意義を分かってもらえたでしょうか?
さて、本筋の、うつ病ガイドラインの説明を始めていきたいと思います。
まずはうつ病ガイドラインの第1章「うつ病治療計画の策定」という部分を解説します。
治療計画とは読んで字のごとく、今後の治療の方向性を決めるものですが、そう簡単に決められるわけではありません。
まずは、患者さんの情報をしっかりと把握することから始まります。
「情報収集」が最初のステップなのです。
これは、別に医療に限ったことではないでしょう。何か問題が起きたら、まずはどういった問題が起きたのか、情報を把握することが第一歩だと思います。うつ病の診察、治療においても同じということです。
精神科の場合、情報を集めるには、まずは患者さんと話すところからになります。主に精神的な症状について色々と聞いていくわけですが、その前に、精神的な部分以外にも注目しないといけません。
まずはそこから話します。
このガイドラインには「理学的所見」と書かれていますが、これは内科的な診察をして得られる情報のことです。
内科的な診察というのは、身長や体重を測ったり、血圧や脈拍を測ったりなんかのことです。精神科医というより、内科のお医者さんが行うものというイメージをもつ方が多いと思います。
さらに、今現在の病気についてだけでなく、過去の体の病気や内科的な持病なども確認しないといけません。過去にどのような病気をしたかという経歴のことを専門用語で「既往歴」と言います。
なぜ、このように身体の病気、内科的な疾患について確認するかというと、理由は主に三つあります。
一つ目は、内科的な病気で精神状態が悪くなり、精神科にやってくる人もいるからです。今では、本当にたくさんの身体の病気が精神症状と関係していることが分かっています。
例えば、甲状腺ホルモンの異常や脳梗塞などがうつ病を引き起こすことが知られていますが、他にもたくさんあります。
こういう身体の病気、内科的な病気がある場合は、そちらも治療しないといけません。
二つ目の理由は、精神状態が悪くなると体を壊す場合があるからです。
例えば、うつ病になると食欲が落ちます。これが酷くなると、激やせしたり、場合によっては栄養失調で命の危険が出たりします。こういう状態を見逃すわけにはいかないですよね。
もちろん、若くて健康な方なら、しっかりとした診察はいらないかもしれません。でも、意外と健康そうに見える人も病気が隠れている場合もあります。
また、特に高齢な方がうつ病になった場合は、体の具合が悪い可能性も高くなるので注意が必要です。
三つ目の理由は、薬を処方する時に大事な情報だからです。
肝臓や腎臓が悪いと、薬が身体の外に排泄されず、身体の中に蓄積されていってしまうことがあるので、薬を少なめに出さないといけません。
また、ある病気がある人には、この薬は出してはいけないという場合もあります。
こうしたことを考えると、精神科でも、身体的な病気、内科的な病気を確認しないといけないわけです。
さて、今回はここまでですが、全て解説するまで続けます。次回は、いよいよ精神科的な情報を集める話をします。
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