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乳がんの治療で電車が怖い?



乳がんのホルモン療法と精神症状

電車に乗っていると、ふいに恐怖におそわれ、胸がドキドキし、息が苦しくなり、冷や汗が吹き出る。

こんな症状をパニック発作と言います。

どちらかというと、女性に多い症状ですね。

そして、電車が怖くて乗れなくなる。

このように特定の場所が怖くなることを広場恐怖と言います。

他にもバスに乗れないとか、エレベーターに乗るのが怖いという方もいます。

閉鎖されていて、逃げ場が無い場所に恐怖を覚える方が多いですね。

狭い場所が苦手な人が多いのに、広場恐怖という名前は変だなと思うのですが(多分翻訳の問題でしょうが)、まあそんな名前になっています。

そして、こうした広場恐怖という症状が長く続き、時にパニック発作が起きるようだと、広場恐怖をともなうパニック障害とつなげて呼びます。

そのまんまの名前ですね。

ちなみに、これを自律神経失調症とか書いているサイトもありますが、それはもう使われない病名です。

広場恐怖やパニック障害の治療ですが、精神療法の他には、SSRIという脳のセロトニンを増やす薬を使います。

これは、以前にブログでも解説しましたが(うつ病ガイドライン徹底解説18 新規抗うつ薬による治療)、うつ病の治療薬と同じものです。

さて、この電車が怖くなる、バスが怖くなるといった広場恐怖ですが、実は、がんの治療の副作用で出てくることがあります。

乳がんの治療に使うホルモン系の薬の中には、精神の不調という副作用があり、そのせいでうつ病になったり、不安障害になったりすることがあります。

不安障害とは、大きなカテゴリーです。

広場恐怖やパニック障害は、不安障害の一種になります。

今回は、乳がんの治療薬であるタモキシフェンという薬と、広場恐怖に関する研究論文を紹介します。

韓国の研究ですね。

タモキシフェンとは、エストロゲンという女性ホルモンの受容体(ホルモンを受け取るとこ)をブロックする薬です。

これにより、女性ホルモンの作用を阻害しているわけです。

女性ホルモンが乳がんを成長させてしまうので、それをタモキシフェンが止めることで乳がんの再発を防ぐなどの効果を持つのですが、この影響でうつや不安といった副作用が出ます。

ホルモンは精神に関わりが深いので、他のホルモン系の薬でも精神への副作用が出るものがあります。それで、タモキシフェンにより広場恐怖が出てくる人もいるのです。

この副作用のメカニズムには一つの仮説があります。

タモキシフェンは、FSHという、また別のホルモンを増やすのですが、このFSHの上昇がうつや不安に関係していると言われています。

そこで、FSHを抑えるゴセレリンという薬とタモキシフェンを一緒に使うことで、精神への副作用が出にくくなるのではと考えられました。

ゴセレリンは長く使い続けることで、FSHを減らす作用があります。

この研究では、12ヶ月という比較的長い期間、タモキシフェンとゴセレリンを一緒に使った人たちと、タモキシフェンだけを使った人たちを比べました。

すると、タモキシフェンとゴセレリンを一緒に使った人たちは広場恐怖が出にくいというデータが得られたのです。

この論文の考察では、ゴセレリンがFSHを減らしたから、広場恐怖が出にくくなったのだろうと書かれています。

乳がんになっただけでも辛いのに、治療でさらに不安やうつが出るのは、あまりにかわいそうです。

これで副作用が抑えられると、喜ぶ人は多いと思います。

今後、この治療法の実用化に期待ですね。

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