うつ病ガイドライン徹底解説16 うつ病が軽症な場合の精神療法
今回は、うつ病が割と軽症の場合について説明します。うつ病学会のガイドラインでは、第2章「軽症うつ病」の項目に当たります。
軽症うつ病のイメージは、うつ病の症状はあるけれども、仕事や家事は何とかこなせていて、生活がある程度は成り立っているような方です。
基本的に、軽症とはいえうつ病には違いないわけですから、今まで解説した評価、治療のプロセスに沿って診療していきます。
ただし、ちょっと違うのは、治療法の優先度です。
実は、軽症の場合は、いきなり薬物療法と行かずに、精神療法・心理療法から治療を始めても良いという論調が世界的な流れです。
というのも、軽症うつ病の場合は、抗うつ薬の効果があまり無いという研究結果が複数報告されているからです。
やはり、薬の治療は副作用というリスクとの戦いでもあるので、それなりに有効性が見込めないと踏み切れないところではあります。
精神療法・心理療法については、うつ病ガイドライン徹底解説13でも書きましたが、認知行動療法や対人関係療法などが代表的です。
ここでは、うつ病の再発予防として有効と説明しましたが、うつ病の治療としての効果もあります。
ただ、日本ではまだ広く普及はしていないのが現状ですね。
また、ここでは、日本独自の「小精神療法」というものも説明しておきます。
これは、患者さんの言うことを支持的に傾聴、つまり優しく丁寧に聞いて、適宜、うつ病の説明や治療の説明といった心理教育を行っていくというものです。
心理教育については、うつ病ガイドライン徹底解説9、10で解説したので参照して下さい。
これは、短時間で行う心理カウンセリングですが、これだけで十分に治療可能な人がいます。
この小精神療法については、うつ病学会のガイドラインでも、「笠原, 予診・初診・初期治療, 診療新社, 大阪, 1980」から9項目を引用して箇条書きにしていますが、ここでも同様に引用させて頂きます。
病人が言語的非言語的に自分を表現できるよう配慮をする。
基本的には非指示的な態度を持し、病人の心境や苦悩を「そのまま」受容して了解することに努力を惜しまない。
病人と協力して繰り返し問題点を整理し、彼に内的世界の再構成をうながす。
治療者の人生観や価値観を押しつけない範囲で、必要に応じて日常生活上での指示、激励、医学的啓発を行う。
治療者への病人の感情転移現象につねに留意する。
深層への介入をできるだけ少なくする。
症状の陽性面のうしろにかくされている陰性面(例えば心的疲労)に留意し、その面での悪条件をできるだけ少なくする。
必要とあらば神経症に対しても薬物の使用を躊躇しない。
短期の奏功を期待せず、変化に必要な時間を十分にとる。
なお、上記では必要に応じて「激励」と書かれています。
うつ病の人には頑張れと言ってはいけないということが昔は広まった時代もありましたが、それは根拠に乏しい考えです。
もちろん、無理をさせることはいけませんが、それは言い方次第でしょうし、状況にもよります。つまり、ケースバイケースということですね。
さて、次回は、第3章「中等症・重症うつ病 ~精神病性の特徴を伴わないもの~」という部分を解説します。
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